なつにつ記

過去と今を自由に飛びまわる私記/エッセイ。 レトロでファニーでちょっぴり不器用なくらし。 食いしん坊。 短編小説だと思って、お暇な時にぜひに。

ユー・ガット・メール

 

おーさむ、さむ。

ひび割れたガサガサの手で、キーボードをたたく。

はやく皮膚科でもらった、お薬を塗らなきゃ。

 

もうこんな時期か、それもそうだ。この地に来て、はや3カ月がたった。

季節は秋から冬に移り変わろうとしている。

 

毎年毎年飽きもせず、乾燥とそれに伴う皮膚トラブルと、末端冷え性に悩まされる私だが、それでもこの季節がうんと好きだ。

夏場は憎たらしげに傘でガードする日差しは、まるでとろけたバターのように心地がいいし、空気も美味しい。

冬のおしゃれも大好き。ふわふわのニットに、真っ赤なマフラー、ブーツ...

 

う~ん。

 

...ねえ、久しぶりだね、寒くない?

この日記も約2カ月ぶり。

話したい事、書き留めたいこと、忘れたくない気持ちはたくさんあったけど、毎日"暮らす"のに精いっぱいだった。頭の中の完璧主義な自分が、「今日もまた書けないの?」って、むっとした顔を時折のぞかせていたけど、見て見ぬふりをしておいた。

 

書けるけど、書けないくらい、がんばっていたんだよ。

楽しいことも、悲しいことも、嬉しいことも、悔しいことも、

いろんなことをよくよく噛んで、自分の中で消化していた3カ月だった。

そのぜ~んぶが栄養になって、たしかに今の自分を形作っている。

やあ、おつかれ、私。

 

だから、ここに戻ってこない日が続いても、もうだいじょうぶ。

 

…とはいっても、全てを内緒にとどめておくには、私はいささかおしゃべりすぎるみたい。

 

ねえ、今お時間ありますか。

私からの、遅れてきた秋の便りだと思って、この手紙を読んでくれませんか。

 


ーーーーーーーーーー

 

親愛なるみなさん、お元気ですか。

私もくまのナニーもとても元気です。

小さい頃から一緒のくまのナニー

ひとりと一匹で、細々と暮らしてはいますが、けっこう楽しいです。

もうすっかりこの家も居心地よくなってきて、今はちゃっかりクリスマスムードに模様替え。

両親は毎回会うたび、私の居住環境と栄養面を心配し、(少しの"イジり"も入っているが)食材を買ってくれたり、電気あんかをはじめとする暖房器具をせっせと与えてくれる。本当に優しい。泣いてやろうか?

どうやら両親の中で私のイメージ図が、「極寒の部屋で腹を空かしている」というものからなかなか更新されないらしい。

両親の中でのイメージ

(ほら、はやく、もっと立派になって親孝行しないと!心配かけさせないようにしなさい!)と25歳の私が厳しく諭すけど、

いくつになっても甘えたり、話を聞いてもらえて、大層うれしがっている、幸せそうな二人の"娘"の私を見たら、怒る気がなくなったりする。

 

その繰り返しで、今は、ゆるしてね。

大丈夫だよ、安心して。三食なんとか自炊してるし、たくさん食べているよ。

発酵あんこや豆乳マヨネーズ、オーバーナイトオーツ、既製品より体に優しくておいしいごはんも取り入れてるよ。

何より、前より自分にお金かけてあげられるようになったよ。すごいでしょ!

(パパママ、ここでひと安心)

 

しか~し!!ここで最近の悩みの種が。(パパママ、"またか.."と呆れる)

自転車との出会いでバスと決別し、平穏が訪れたと思ったら、次にターゲットとなったかわいそうな子が、こちら。

そう、I H 。

手入れと安全面ではピカイチだが、どうにも、生まれてからガス火に育てられた私とは折り合いが悪い。

 

IH用のフライパンや鍋を新しく買いなおす手間、熱伝導の違いに慣れずよく焦がすこと、洗い物の手間、IHの真下に保存してた粉末調味料が溶けた.......etc

積もった不満(というより全部自分の不足)によって、私は、

なんということでしょう、

 

意地の悪いお局になってしまったではありませんか。

 

「あれ~なんかお湯沸くの遅くなあい?気のせいかな?」

「寒いから湯たんぽ...あっ、そうか、IHちゃんにはできないんだったね、ごめんごめん!」
「やーだ!電気代また値上げした!?.....ああ、IHね~」

...と、バリエーション豊かな嫌みをわざと聞こえるように口に出すことで、負けじとがんばってもらおうとしている(?) 

 

なんて、半分冗談だよ。最近はちゃんと仲よくしようと努めてるよ。

(でも、次の家は絶対ガスにしようとは思っているよ)

IHと仲良しの方、こっそりコツを教えてくださいネ...

 

 

そうそう、

仕事の方もなんとか軌道にのって、少し自信がついたみたい。

先日、職場の先輩に、「もう三か月です」と口にしたら「まだ、三か月?もっと長い間いるみたい」と笑ってもらえた。

そのくらい、私にとってもみなさんにとっても居心地がよくお仕事ができるようになってきた。

 

最初は、世代間(をはじめとする)の価値観の違いや、前と比べて良くも悪くも密接になった人間関係を煩わしく思っていたけれど、最近はうまく付き合える。

新人だけど戦力にしてもらえて、同時に末っ子としてたくさん可愛がってもらえるのもありがたい。

好きで勉強してきた英語を、仕事でつかえる環境も、より一層自己研鑽できることもこの上なくうれしい。

心から「転職に踏み出せてよかった」と思っている。

感謝しなければならない。もちろん、前の職場にも。

私に「完ぺきな職場なんて存在しない」と教えてくれた、憧れの方にも。

 

ついこの間、退職以来ようやく再会できたその方と、お互いの尽きない近況報告をしあった。

ランチだけじゃ時間が足りなくて、二次会はお茶会。

何度も通った放送ライブラリーの下にあるカフェ、ようやくいけた。

内装もコーヒーも、とっても美味しい。お気に入り。

 

こうやって、一生涯の友人に出会えるのが、仕事の憎めないところ。

またお会いするときに、良い報告ができるように、精いっぱい働こう。

 

ひとりで暮らしていると、こうした人とのふれあいやお出かけが、一つ一つとても貴重で、あたたかくてくすぐったい。

転職して休日も変わって、Aちゃんとも定期的に会えるようになった。

 

ついこないだも、二人でカラオケや温泉に行って、その夜初めて、この部屋にお泊りしてくれた。中学生みたいに日付が変わってもくだらないおしゃべりをした。

 

次の日は自転車で、皇居まで楽しくサイクリング。(といっても往復45キロ以上はあるのでちゃんと運動になった)

お酒を飲みかわすだけじゃなく、一緒に童心に帰ってはしゃいでくれる、そんな友達が、いつも大事で大好き。

 

最近では、自転車がほぼ唯一の移動手段であり、相棒になってきたが、

誰かとサイクリングすることの楽しさを、Aちゃんのおかげで思い出せた。

(通勤時の場合、前を漕ぐサラリーマンやJKをいかに追い抜かすか、風よけにするかしか頭になく、だいぶ殺伐としている。)

 

この間は、母もはじめてお泊りしてくれて、同じ様に都内までサイクリングをした。

何年も自転車に乗っていない母を、(しかも電動自転車は初体験)都会の道を走らせることに対する私の心配をよそに、少女のように軽やかに、楽しそうに漕ぐ母の姿に、思わず笑ってしまった。

田舎の学生時代に、通学で電動なんてない自転車をこぎ続けた母だもん、杞憂だったね。

 

自由が丘のおいし〜〜いイタリアンのコースを食べて、女同士、とまらないおしゃべりをした。

大人になるのも悪くない。

生意気に反抗して泣かせた母を、その倍、職場で鍛えられたトークで笑わすことができるんだから。

次の春に、帰ってくる姉も加えて、三人でお泊りしてサイクリングするのがいまの夢。

父には、車で追いかけてきてもらおう。そうしよう。

 

私のスマホには、大好きな人と並んで走れるように、いつでもシェアサイクリングのアプリがインストールしてある。

 

 

 

もちろん、まだまだ、

落ち込むこともあるけれど

 

例えば、

 

もはや無事に持ち帰ったことの方が少ないくらい「自転車での卵パック持ち帰りチャレンジ」で見事完敗したり、

なんだかWi-Fiの調子が悪くて、でも以前の対応がトラウマ+電話恐怖症(と言い訳づける)で対処を先延ばしにしたり、

無差別殺人や津波、なにかから逃げる悪夢に連日うなされて目が覚めたり、

ダイエットとかすべてどうでもよくなって、暴食してしまったり

職場で、とんだ時代錯誤の会話(誰かの容姿や体型への誹謗中傷)に嫌気がさして、耳をふさぎたくなってしまったり、

 

たまに、どうしようもなく不安で、さみしくて、孤独で、

「私なんかずっと一人だ」と、何も見えなくなる日もあるけれど、

 

でも私、

 

スーパーの駐輪場で無残にも割れた5/10の卵たちを、パックからこぼさないように持ち帰って、甘くておいしい卵焼きにできるし、(そもそも自転車で運ぶのはあきらめようと結論付けたり)

もうすぐはじまるテレワークのために、サービス利用者の当然の権利を駆使して、何が何でもWi-Fiをどうにかしようと意気込んでるし、

悪夢にうなされて早朝に目が覚めても、その分ゆっくりメイクして早めに出勤するし、

暴食しても、太っても、私の中身は変わらないから焦らずに、またできるだけ健康的に、着たい服が似合うようにがんばるだけだし、

誰かへの誹謗中傷がはじまったら、人のふり見て、また自分が一つ優しくなれてラッキーだし、

いつか言う勇気が出たら出たで、言えばいいし、

その人も、自分と同じ弱い人間だと気づけて、人間って哀れで愛しいな、と段々思えるようになったし、

 

 

自分が見えなくなっても、少し経てばまた、

自分がどんなにかけがえのない、唯一無二の面白みのある人か思い出せるし。

みなさんのおかげで。わたしのおかげで。

 

だから大丈夫。

 

なんだかんだ、わたし、

私、この町が好きです。

 

そして、

この町で暮らす、私のことも、好きです。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

書き終わった手紙は、どこかの誰かさんにしたためているようで、

気づいたら家族や友人の顔ばかり思い浮かべ、綴られていた。

日記も開けないまま、精いっぱい生きているわたしを、励ましてくれる人たちに。

 

 

それは、北の町の、どこかのベッドで、今はゆっくり休んでいる祖父にも。

 

 

有難いことに大学までだしてもらい、孫も大人になりました。そりゃあ、貴方もお年を召されるわけです。

今までは、FAXでつたない文字や絵ばっか送っていたけれど、こんなに長い文を、丁寧に、つづれるようになりました。

ラインすら見るのは大変だろうけど、このブログを、いつか見てほしいなあ。

なんて思うのは、これはただの、孫のわがままかな。

 

この間、久々に会えて、祖父の、父の故郷の地を踏んで、海を見て、実感した。

 

祖父が暮らす町が、父が生まれ育って、母と苦労して、私が可愛がられたあの町が、

やわらかい光のような思い出と共に、今も在るあの町が、だいすきだ。

ろくに顔も見せられない、よくできていない孫でも、そういうふうに思う。

 

 

 

また、会いに行くね。

 

 

 

この手紙を読むそこのあなたに、

 

どこかで似たように毎日精いっぱい暮らすあなたに、

いつもそばにいてくれるあなたに、愛をこめて。

 

 

 

やっぱり寒いね、

また便りをとどけるからね。

 

バスと、自転車と、それから私

 

引っ越し、そして転職からちょうど一か月が過ぎた。

 

「もう、すっかり慣れました」なんて口が裂けても言えないほど、新たな環境に四苦八苦しているが、それでもどうにか落ち着いてきた。

 

先日、山下達郎のライブで購入した「SPACY」のレコードを聴きながら、カフェラテを飲みつつ、ゆっくりと日記を書けるぐらいには。

 

 

ねえ、久しぶりだね。積もる話が、たくさんあるよ。

 

でも、何といってもホットトピックは「新しい仕事」と「新しい家」かな。

 

仕事は、勇気を出して転職してよかったな、と思えるくらいにはイイ感じ。

生活水準も上がったし、新しいスキルもいろいろ盗めそう。

人間関係も、悪くない。末っ子として可愛がられて、ありがたい。

 

この先、絶対、必ず、嫌なことはあるだろうけど、いいんだ。

 

前職の大好きな先輩が、「完ぺきな職場なんて存在しない」って素敵な言葉をくれたように、会社を無理に"私の居場所"にする必要はないって気づけたから。

仕事も大事だし、やれることはやるが、心の中心には決して居座らせず、定時に上がって遊びに繰り出せるくらいの気力と体力を残したいものね。

 

 

この新しい家も、十分整った。あとはおしゃれに着飾るくらい。

暮らしに必要なベースは、前の家からそっくりそのまま持ってきたとはいえ、さすがせっかちな私だ。前回なんて、一から家具をそろえたのに1カ月もかからなかった。「引っ越しRTA」があったらいい線いってるのでは?

 

まあ、最近は便利なもので、私もようやく「通販でインテリアなどを買う」という技を覚えた。いつまでも実家の両親に頼ってニトリIKEAに車を出してもらうわけにはいかないからね。

 

そうそう、引っ越しに伴い、思い切って買ったものといえば、「電動自転車」だ。

これに関しては必要経費で、というのも新たなアパートが実は、「最寄り駅が電車ではなくバス停」なのだ。

 

前より広くて綺麗で、素敵なこのお部屋を、意外とお得に手に入れられる交換条件は、バスだった。

 

バス...私は子供のころからそれが苦手だった。乗り方がいまいちわからない上に、怖いバスの運転手さんに遭遇したからかもしれない。

その上、小学校の遠足の帰り道、ひどいバス酔いを経験したその時から、私の中で「バス=避けるべき最悪の交通手段」と位置付けられたのは致し方なかった。

 

不動産にて、その感情を隠せずに「バス...」「バスか...」と、しおしおの顔で渋る私に、「慣れたらどうってことないですよ」と不動産のお兄さん。

「何を心配してるの~?」とケラケラ笑う付き添いの母。

 

正直心の中で(人ごとだと思って...)とまったくの見当違いな悪態をつくほどバスが嫌だったが、それでもいい物件を逃したくなくて思い切った。

 

最初はバスユーザーの皆様に「なにをそんな当たり前なことを...」と呆れられるであろうことでいちいちいちBADにはいっていた。

バスが時間通りに来ない、本数少ない、すぐ満員になる、渋滞に巻き込まれる、屋根のないバス停で待つ時間が辛い、揺れ過ぎ、終バス早すぎ..etc,etc.

正直バスが理由で前のアパートが死ぬほど恋しくなった。

 

だが、不動産の方と母の言うことは正しかった。人間不便にもすぐ慣れるものだ。

 

とにもかくにも、一応バス以外の移動手段、電動自転車を手に入れた私。

もう重たい荷物を半泣きになりながら坂を上る必要がない!ばんざ~い!

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アクセスが悪いからって、お家に引きこもるわけにはいかない。

終バスが早いなら、遊んで帰りが遅くなる日は駅の駐輪場に自転車を待機させるようになった。

 

私はお家とひとり時間が大好きなので、巣作りをする鳥のようにせっせせっせと家を整えたが、これからは積極的に、巣から遠くまで飛んでみようと思う。

 

引っ越しに伴う出費で、ふところは寒々しいが、それを理由に自粛するのもやめにしようと思う。縛りや思いこみのロープで、自分の首を自分で締めたくはない。

 

私には、好きな人と好きなことを、好きな時にできる権利があるんだよ。

そんな当たり前のこと、すぐ忘れちゃうから、何度だって思い出してあげたい。

 

新しい家と新しい職場は、そのための第一歩だ。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

待ち望んでいた三連休、明日もたのしいおでかけだ。

バスに揺られて、新しい道を向かおう。

 

 

拝啓

 

親愛なるみなさん、バスに乗って私のお家に遊びに来てください。

今度のおうちにはWI-FIもあります。

レコードをセットして、コーヒーを用意して待っています。

 

 

なつにつ記第二章も、どうぞ温かく、気長に見守ってください。

 

かしこ

 

 

 

 

 

さよなら なつのひ 

提灯の灯りが、うんと好きだ。

カラフルでいて、おぼろげ。まるで夏そのものみたい。

 

 

私が暮らすこの町にも、"盆踊り大会"の季節がやってきた。

去年も会社帰りに1人で参加して、大いに踊りまくったものだ。そして、"1人盆踊り"ができたんだから、この先大抵の"1人〇〇"ができるな、なんてほくそ笑んだ。

 

この町は、地元と比べてあまりに都会で、越してきてしばらくは、スーパーや薬局に蠢く人の多さに驚いた。

なので当然、こういった祭り事にも、集まる人・人・人。なんせ、自治会が売っている「一本100円の焼き鳥」に、30人ほどの大行列ができるほどだ。

 

そこで去年の私は、行列に並ぶ代わりにスーパーに駆け込み、冷凍の焼き鳥を店のレンジでチンして食べるという機転を効かせた。

「つくねなんて売ってたっけ?」とでも言いたげな行列のみなさんの前で、見せつけるように味わった、そんな思い出。

 

今回も味を占めて、同じような冷凍つくねを持参して、到着した祭り会場でまずは腹ごしらえ。

ざく切りしたキャベツも家からビニールに入れて持ってくるぬかりなさ。

ちらりと屋台を見やる。..あれ?今年はほとんど並んでいないな。

ふーん.....

 

..ま、素早くお腹を満たしたのも、さっさと盆踊りタイムにはいるためよ!!!夏を感じるぞ!いえーい!!!

 

意気揚々と立ち上がると同時に、アナウンスが鳴り響く。

 

「は〜い、では一度みなさん休憩タイムに入りましょう!水分とってくださいね〜!

それから、太鼓を叩きたい小さなお友達は、櫓に上がってきていいですよ〜!」

 

行き場のない盆踊り欲。

市民プールで、入水直後に「休憩時間」が訪れた時と似てるな。

 

小さなお友達の独特のリズム感の太鼓と、なんとも微妙な距離感の小中学生の男女グループを見守り、しばらく待つことに。

手持ち無沙汰から、再び屋台の方に意識が向くと、鼻をくすぐる焼き鳥のタレの匂い。

(せ、せっかくだから.....)

結局。

冷凍つくねも悪くないが、祭りで食べる炭火で焼いた焼き鳥は、格別なのだ。

 

踊る前から高まる気分。サンダルのチョイス間違えて、砂利が素足と靴の間に入りまくって痛いのも忘れそう。

 

ここで再びアナウンスが。

「さあ、そろそろ盆踊り再開しますよー!

そしていよいよ、盆踊りもラスト三曲となりますので、どうぞみなさん奮ってご参加くださ〜い!」

 

なんと!?もうフィナーレなのね!?

 

悲しんでもしょうがない。今年初で最後であろう盆踊りを、全力で楽しもう。

 

急いで輪に加わり、櫓の上の美しく着物を着こなすお姉様たちを見本としてロックオンする。

 

一曲目は....「Beautiful Sunday」だ!

洋楽で踊る盆踊り、実にオツだねい。

右に左にステップを踏み、待ち望んだ盆踊りを、「日本の夏」を体全体で噛み締める。

 

二曲めは....待ってました!!

「炭坑節」だ!!

小さい頃から、地元の盆踊りで何度も踊った大好きな曲。

お手本を見なくても、体が振りを覚えてる。

 

掘って、掘って、また掘って ♪

担いで、担いで、

引いて、引いて、

押して、押して、

開いてちょん ちょちょんがちょん ♬

楽しい!盆踊り最高!

 

私は物心ついた時から「踊れない」ことがコンプレックスで、中学の体育でも、必修のダンスに苦しめられてきた人間だ。

(中学生にEXILE踊らせないで)

 

そんな私にとって、簡単かつ単純明快な「盆踊り」は唯一自信を持って踊れるダンス。

たーのしーい!

 

 

「さあ、いよいよラストは、マツケンサンバでーす!!」

 

聞き慣れた軽快な、ブラジル仕込みのリズムが公園に鳴り響く。

 

あーあ、もうこれで最後か。まだ踊り足りないよ....

 

ーーーーー

 

25歳になった途端、転職や引っ越しの準備で日々は目まぐるしく過ぎ去る。

知らぬ間に夏が始まり、そして終わりに向かっていく。

 

思えば、凍えるような寒い冬に、あたたかな家族と地元を離れ、1人この町に来たんだっけ。

 

1人で暮らすのはもちろん、お金の管理を自分でするなんて初めてで、最初は全てが手探りで、不安だった。

暖房もつけず、湯たんぽも使わず、寒くて、さみしくて、震えながら寝ていたっけ。

 

それからあっという間に、1年と8ヶ月は過ぎ去った。相変わらず素朴で質素な暮らしだし、結局1人も友達は(こんなに人は多いのに)できなかったけど、

 

自由で、楽しくて、最っ高の日々だった。

一生、忘れない記憶が、いくつもできた。

 

私に言いたい。1人がどうした!

一度輪に飛び込んでしまえば、踊ってしまえば関係ない。

したいように、好きなように、私の人生を踊ろう。

 

"踊る阿呆に見る阿呆

同じ阿呆なら踊らにゃそんそん!"

 

思えば今回の転職も引っ越しも、現状に嘆くだけの自分がイヤになって、何かを変えたいと思って勇気を出した結果だ。

 

踏み出してよかった。

この町は、大好きだけど、きっともっと素敵なことが待っていると思うから。

 

 

 

....あぁ 恋せよ アミーゴ

踊ろう セニョリータ

眠りさえ忘れて 踊り明かそう ♪

 

 

この街でのラストダンスが、終わろうとしている。

 

ー サンバ ビバ サンバ

マ・ツ・ケ・ン サンバ ♫  

オレ! 

 

「オレ!!!」

 

バッチリ決めポーズもきまり、祭りは終わりを告げる。

 

あー、楽しかった。

なーんにも、悔いはない。

 

輪の中から抜け、1人また歩き出す。

 

 

次の輪に飛び込むために。

 

ーーーーーーーー

 

家に帰ると、20匹ぐらいのパンダが「おかえり」と私を見つめてくるのにも慣れてきた。

 

いよいよ、お別れの時が来た。

この町とも、あの街の職場とも。

 

そしてこの部屋とも。

 

 

次に日記を書くときは、あの町の、あの部屋で暮らしているんだ。

 

「なつにつ記」第1章は終わりを告げて、

 

すぐにまた、第二章が始まる。

 

がらん、とした部屋を振り返って、別れをつげる。

 

ありがとう。

 

さよなら、

 

 

 

さよなら、なつのひ。

きょうはなんのひ? 後編

 

"きょうは なんのひだか、しってるの?"

 

"しーらないの、しらないの

 

しらなきゃこのにっきよんでみて"

 

 

ーーーーーーーー

 

誕生日から2日目。

 

今日も今日とてお仕事。

でも、お仕事の後にはとっておきが待ってる。

私の2日遅れのお誕生日会が待ってる。

 

それも、大好きなAちゃんが開いてくれる、それはそれは素敵なお誕生日会が。

 

よし、お仕事頑張ろうっと。

 

 

〜ただいまお仕事中〜

 

「お先に失礼しまあす!!」

 

元気に定時上がりを決めて、今にも雨が降りそう曇り外の下へと飛び出す。

 

(雨、降りませんように....)

今日ばかりは、自分の雨女ぶりを恨んでしまう。

 

だって、きょうはね、きょうは....

 

(Aちゃん、どんなドレスコードで来るかなあ。)

 

わくわく、どきどき

 

 

ーーーーーー

 

 

あっ、Aちゃん!!!

 

淡い群青色とでもいうべき、素敵なブルーのワンピースを着たAちゃんが、向こうから駆けてくる。

 

(急がなくてもいいのに、)

 

クスッと笑いがこぼれたのは、昔から変わらない光景だと感じたから。

 

Aちゃんはとっても真面目で、約束やルールは必ず守る素敵な女の子。

だけど何故か、待ち合わせ場所にはいつも私が先に着くふしぎ。

※私が心配性で、人との待ち合わせには必ず余裕を持って到着するというのもあるかも。

 

中学生の頃、一緒に登校するため毎朝待ち合わせをするときも、こうして小走りで「お待たせ〜」と申し訳なさそうにしてくれていたな。

 

社会人になって、可愛らしさはそのままに、大人っぽいドレスが似合う素敵なおねえさんになったAちゃんだけど、

今も昔も変わらないその姿が、いつにも増して微笑ましかった。

 

 

目的地への道中、つもりに積もった話をノンストップで交わしていると、私の祈りに反してポツポツと雨が降り出してきた。

 

傘を持っていないAちゃん。

小さな折りたたみの日傘しか持っていない私。

 

風も強く、セットした髪はあっという間にぐちゃぐちゃ。せっかくのAちゃんのお洋服も、わたしの小さな傘では守りきれない。

 

でも、私たちが心配しているのは、そんなことじゃなくて。

 

なりよりも、それよりも、思うことはいっしょだった。

 

 

「「船、出るかなあ....」」

 

 

そう、25歳の誕生日に、Aちゃんが私のために考えてくれたとっておきのプラン、

それは、

憧れの、マリーンルージュでのディナークルーズ

 

実は以前、"横浜街歩きツアー"を体験した日記で私はマリーンルージュについて触れていた。

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Aちゃんはこの日記を通して、船の存在を初めて知ったらしい。

そうして半年経った今、わざわざ私に「こんな誕生日のお祝い、どうかな?」とこれ以上ない素敵な提案をしてくれて、私の夢を実現させてくれたのだ。

船が大好きで、特にサザンの歌に登場するこの船に、ずっと憧れていた私の夢を。

 

なによりもまずAちゃんが、わたしのことを考えて、こうして一生懸命プランを練ってくれたこと自体が嬉しい。中学の時から変わらず、ずっと、嬉しい。

 

ありがとう、Aちゃん。

 

ーーーーーーーー

 

 

そんなAちゃんの最高のプランを、雨に邪魔されたくはない!!

 

と、内心空に向かって"圧"をかけまくる私の祈りが今度こそ通じたのか、

 

はたまたAちゃんの日頃の行いが良いのか、

 

赤煉瓦倉庫が見えはじめた頃、不意に雨はやみ、

気がつくと空には、大きな大きな虹がかかっていた。

 

「にっ、虹!!!虹だ!!!!」

「うそ!?ほんとだ!!!」

 

途端に2人とも少女に戻って、きゃーきゃー笑いながら写真を撮る。

それはそれは大きな虹で、

しかもよく見るとダブルレインボーで、

 

(奇跡みたい、)

 

道行く人みんなが、空を見上げて、大切な人と寄り添って写真を撮りあって、

 

なんだかとっても、奇跡みたいな風景だった。

 

(さっきまで仕事をしていたのが、よっぽど夢みたいじゃないかしら)

ふと虹に背を向け、職場の方を振り返ってみる。

そこには真っ赤に燃える夕やけ空が!

思わずAちゃんとパシャリ。

 

船に乗る前から、すでに大満足になってしまった私。

(きっとこれも、Aちゃんのプランの一部!)

 

でも、メインはまだ始まってもいない。

マリーンルージュは虹のふもとで、ちゃんと私たちのことを待ってくれていた。

 

クルーズの出航は19時半で、早めに到着できた私たち。

予約をしてくれたAちゃんがスマートに受付を済ませてくれて、ワクワク高鳴る胸を押さえたまま、待合室でおしゃべりしながら、乗船の時間を待つ。

 

「この日のために何度もあの曲聞いて気分を高めてきたんだ〜」

「私も!!」

 

余談だが、私もAちゃんも初めての乗船で、その上2人とも"ネタバレされたくなくてあんまり調べていない"という謎のこだわりまで一致していて、おかしかった。

 

ついに乗船開始!

船内は高級感あふれる、レトロで素敵なデザインで、口を開けたままキョロキョロ見渡してしまう。

 

私たちが案内されたのは、2階の「Cerezo(セレッソ)」のお席。

しかも景色がよく見える窓際だったの!最高!

 

早速乾杯のドリンクを注文。

Aちゃんはクラフトビール、私はフルボディの赤ワインを。

 

ちょうど一年前の誕生日は、友人と石和温泉で迎えたんだっけ。そこでワイナリー巡りを経てワインの魅力を知った私。

フルボディはなんだかわからないけど、とりあえず上がったテンションのまま注文。

(Aちゃんあのね、フルボディってコクが深くて濃厚で、重めのワインなんだって。...あら、すっごく飲みやすかったのにな。)

 

「改めて、誕生日おめでとう!」

「ありがとう!!」

 

「「乾杯!!」」

25歳になったことにも、憧れのマリーンルージュに乗っていることにも、まだ実感が湧かない。

 

しばらく船内の様子と窓の外の景色を楽しんでいると、船がゆっくりと出港。

少しずつ遠ざかるみなとみらいの夜景。

 

そして、お待ちかねのディナーコースがスタート!

 

〜ここからは、予習なしで「己の舌」を頼りにディナーを味わう私たちのリアルな会話を、一部写真とともにダイジェストでお届けします。〜

(ウェイトレスの方からお料理の説明あったけど、いかんせん覚えられず..日記を書いた今、ようやく答え合わせができました。)

※コースの内容は6月時点のもの

 

【オードブル】

キノコのブリウォッシュ

夏野菜トマト煮添え

前菜から手の込んだ一品。

ブリウォッシュは香ばしくて、とっても美味しかった。マリーンルージュのお皿にキュン。

Aちゃん「ラタトゥイユみたいなの美味しい!」

私「ケークサレみたいなのカレーの風味(?)がする!んま!」

(2人とも、惜しい!)

 

【スープ】

冷製コンソメスープ シェリーの香り

ー写真なしー

優しい味だけど、深い旨みの上品なスープでした。

Aちゃん「コンソメってそもそもなあに?」

私「なんか...野菜のクズを集めた出汁みたいな...ブイヨンとかいうよね...(コンソメ顆粒しか使ったことのない人間)」

 

【メイン/魚料理】

新鮮真鯛ソテー ココナッツ風味

サフラン入りクリームソース

皮目はパリッと。身は柔らかくジューシーで美味しかった....淡白な白身に濃厚なソースが、合うんだなあこれが!

私「あたしココナッツ大好き!ココナッツって本当にだーいすき!」(大事なことだから2回言う)

Aちゃん「よかったねえ...♪」

パンももらったよ。

中央のバター、ドリンクが来る前から置いてあったので私はすっかり「あら、おつまみのチーズね」と勘違いして危うく丸かじりするところだった。

しっかりして、25歳。

 

※ちなみにこのバターが美味しすぎて、2人ともバターを食べるためにパンをおかわり。

 

 

と、ここでメインのお肉料理の前に、本船が横浜ベイブリッジを通り過ぎるというので、ウェイターの方がお声掛けしてくださった。

 

2人とも、食事が始まる前から「いつデッキに出られるのかなあ!?」と誰よりも楽しみにしていたので、一目散に3階のスカイデッキへ。

 

「わあ....きれい!!!!」

船はまさに、ベイブリッジの下をくぐるところ。そしてバックには鮮やかに輝くみなとみらいの夜景が。

 

(まるで街全体が遊園地みたい。)

 

いつもは、近くにいすぎて、高層ビルや無数の人々に圧倒されるあの街。

海の上に浮かんで、離れて見ると、ピノキオに出てきた“プレジャー・アイランド"のようで、なんだか幻のような風景だった。

 

デッキは強風が吹き荒れているが、せっかくなのでこの景色を、カメラでたくさん残すことに。

Aちゃん、とっても素敵....!

竹内まりやの「プラスティック・ラブ」が聞こえてきそう...。

 

ブリッジの下を通過すると、工業地帯が見えてくる。

そういえば、シーバスは「工場夜景クルーズ」があるんだって。

まさにSFみたいだもんね..こういうのにすこぶる"萌え“を感じる人間だから、いつか行きたいな。

 

海風で、すっかりおでこ丸出しになった二人。

はしゃいだらまた、食欲も出てきたようで、船内に戻ってコースの続きを楽しむことに。

 

【メイン/肉料理】

牛フィレ肉のポワレ マデラソース

ジャガイモ ドフィノワーズと一緒に

(興奮してブレブレの写真)

柔らかいけど、さっぱりしていて、う〜んフィレ肉最高!!

私はサイドのじゃがいもが大のお気に入りに。

 

ドフィノワーズとはフランス、ドフィネ地方の郷土料理でジャガイモのグラタンのこと。 薄切りにしたジャガイモをミルクや生クリームで煮込み、それにチーズをかけてオーブンで焼いたものです。

 

ふむふむ、いつか作ってみようっと!!

さりげなく添えられたトマトまでとびきり甘くて、2人で目を見開いていた。

 

 

「おいしかったね〜!」

見た目も華やかでとびきり美味しいコース料理に大・大満足で、ふくれたお腹をさする。

船の上でのディナーって、景色もさることながら特別感を感じて本当に最高....!

 

(そろそろ、タイミングかな...)

 

少し伺うようなそぶりを見せるのには訳があった。

本日は、全てAちゃんが完璧に企画してくれた誕生日会だが、私にもやるべきことがあるのだ。

 

それぞれ食後のコーヒーと紅茶を注文したタイミングで、話を切り出す。

 

「Aちゃん、あのね...」

 

ーーーーーー

 

「今日は二つのお祝いだね、」

 

 転職について一通りご報告したところ、やっぱりというか、予想通りAちゃんはにっこり微笑んで、心から祝ってくれた。

 

これも彼女の、変わらないところ。

 

いつもわたしの理解者でいてくれて、応援してくれて、味方でいてくれる。 

 

Aちゃんになら、わたしが間違ったときには真っ先に叱ってほしいけど、

 

未来にちょっぴり不安な今は、彼女の屈託ない笑顔と温かい言葉が、何よりも頼もしかった。

 

言いたいことを言えてすっきりしたわたしの耳元に、突然、朗らかな歌声が。

 

ー ハッピーバースデー トゥー ユー ♪

 

「わ!あらま!」

 

奥の方の席で、他のクルーズ客の方がお誕生日のお祝いをしてもらっているようだ。何やら美味しそうなケーキも運ばれていた。

ウェイターさんが周りの席の私たちにも手拍子を促し、みんなでお祝いムードに。

 

「すごい!今日誕生日なのかな!?」

「あのケーキ美味しそうだね!」

パチパチと拍手をしながら、ぺちゃくちゃとAちゃんに話しかける私。

「ね!」と頷いてくれるAちゃん。

 

お祝いが終わり、たわいない話をしていると、今度は違うテーブルからまた歌声が!

 

ー ハッピーバースデートゥーユー ♫

 

振り返ると、大きな花束を若い女性が受け取っていた。

私「カップルの、いい記念日になるね〜」

Aちゃん「そうね~」

 

そのまた3分後、なんと今度は真後ろのお席から!

 

ー ハッピーバースデートゥーユー ♪

 

私「6月生まれって多いんだね〜!仲間だ!!」

Aちゃん「ジューンブライドとかいうもんね(?)あっ、それは違うか」

 

そのまた直後

 

ー ハッピーバースデートゥーユー ♬

 

私「すご〜い!!!この部屋、めっちゃめでたいじゃん!!!」

Aちゃん「....」

 

ー ハッピーバースデートゥーユー ♪

 

私「あっ、また!!」

 

すっかり手拍子にもなれ始め、どうせなら誰よりも大きな声で歌って、見知らぬどなたかをお祝いしよう!とわたしが俄然張り切り出した頃、

 

ウェイターさんがわたしの目の前にもやってきた。

 

(お、食後の紅茶とコーヒーだわ)

 

と、のほほんとしていたら

 

「へ?」

 

ろうそくのささった、ケーキ?

 

の上には、

"Happy Birthday"......

 

「〇〇さん、お誕生日おめでとうございます」

 

 

えっ.....

 

思わず前を見ると、カメラを構えながらニヤリと微笑むAちゃん。

 

 

「Aちゃん!?!?」

これが、その瞬間の私のリアルなリアクションである。

泣いているわけではなく、手のひらの下で爆笑している。

 

嬉しくて、おかしくて、ありがたくて。

 

「6月生まれって多いんだネ⭐︎」と、アホの子よろしく他の方が祝われている様子を、(花束より主にケーキを)指を咥えて見ていた私と、

 

既にこれ以上ない素敵なプランなのに、この日のためにさらにサプライズまで計画してくれて、私というアホの子の相手をしながら、いつ順番が来るのか、ハラハラしながら見守っていたAちゃん。

 

そんな、コントのようにチグハグでいて、どこか噛み合っているような、なんとも楽しくて面白い私たち2人に、笑顔がとまらなかった。

 

あー、本当に、昔から何も変わってない。

これが私たちだね、Aちゃん。

 

「さ、よろしければケーキのお写真ぜひお撮りください」

まだ驚きの余韻から抜け出せずにいる私に、ウェイターさんは、テキパキとアドバイスをしてくれる。

 

「窓際にケーキを置いて、夜景バックなんていかがでしょう?」

「なるほど!」

「ケーキを顔に近づけて持ってみてもいい感じですよ」

「Aちゃん、私、ワインで顔赤くない?」

「平気よ!」

「お二人でのお写真もお撮りしますね、後ほど焼き増しして記念に持って帰っていただけます」

「ほんとですか!?やった!」

さすが本日n回目。手慣れたウェイターのおにいさんのおかげでAちゃんの素敵なサプライズを、しっかりと写真にも残すことができた。

 

そして、改めて、私にもこの時が。

 

ー ハッピーバースデートゥーユー ♪

  ハッピーバースデートゥーユー ♫

 

周りの方々も、本日n回目で聞き飽きているだろうに、温かく拍手をくださって、感無量だった。

 

「おめでとうございま〜す!!!」

 

勢いよくろうそくの炎を吹き消す。

 

誕生日当日、1人でタッパーからグリーンカレーを食べたことや、転職絡みで、泣きたくなるくらい気分が沈んでいたことも、

今全て、この一息で吹き飛んでいった。

 

ここでさらに、お誕生日のケーキに加え、元々コースのデザートが運ばれてきた!

【本日のデザート】

キャラメル風味プリンケーキと季節のフルーツ

美味しそう....ケーキ2個なんて、なんて贅沢なんでしょう....

 

もちろん別腹は空いているが、もうすでに胸はいっぱいで。溢れそうで。

 

「Aちゃん......本当に、ありが、

 

ー ♪ ♫ ♬

 

突然、船内に聴きなれたあのイントロが。

 

歓声とともに始まる、この曲は...!!

 

ー 夜明けの街で すれ違うのは

  月の残骸と 昨日の僕さ ♪

 

「ここで、流れるんだね」

Aちゃんと満面の笑みで顔を見合わせ、どちらからともなく口ずさむ。

 

ー 君無しでは 夜毎眠らずに

  闇を見つめていたい ♫

 

そういえば私たちは、10年前からずっと、こうやっていつも2人で、いろんな曲を歌ってきたな。

登下校の坂道の途中で。

旅行先でサイクリングをしながら。

古い曲ばかり流れるカラオケボックスで。

イヤホンを片耳ずつ、分け合って。

 

ー マリーンルージュで 愛されて

  大黒埠頭で 虹を見て ♪

 

大黒埠頭じゃなくて、大桟橋ふ頭で虹を見たよね」なんて、くすくす笑いあう。

 

ー シーガーディアンで 酔わされて

  まだ 離れたくない  ♩

  早く去かなくちゃ 夜明けと共に

  この首筋に 夢の跡 ♬

 

Aちゃんがずっと、曲が流れている間、その様子をビデオに撮ってくれた。

わたしがケーキを前に歌い踊る姿も、交代してAちゃんの可愛らしい姿もしっかりおさめて、

私のフォルダの中に、その5分きっかりのビデオが今も、大切に残っている。

2人だけの「Love Affair 〜秘密のデート〜」のMVは、何よりもかけがえのない、25歳の誕生日プレゼントとなった。

 

また何年か後に、一緒にこのビデオを見て、恥ずかしくなって笑うのもいいね。

 

ーーーーーーー

 

ひとしきり歌って踊って、美味しいケーキを半分味わった後、デッキに出て、岸と共に段々と終わりに近づくクルーズを堪能する。

 

クルーの方に、写真を撮ってもらった。

また一つ、大人になるんだね、私たち。

でも、子どもでもいようね。あの頃のまま。

 

 

また席に戻って、残りのケーキをパクパク食べる私に、Aちゃんがふと紙袋を差し出す。

 

「ちょっとちょっと、このクルーズが特大のプレゼントだから、もう受け取ってるよお...」

 

申し訳なさと嬉しさで父譲りの垂れ眉をさらに垂れさせて、そっと袋を開けると...

 

 

Aちゃんの大好きな絵本で、私ももちろん知っている名作、「きょうはなんのひ?」が入っていた。

 

「きゃー!!!!!!」

海の上でこだまするわたしの歓喜の悲鳴。

 

恐るべし、Aちゃんのセンスと私への理解度。

こんなにも嬉しいプレゼントが、あるんだ。

 

さらに、同作の挿絵を担当する「林明子」さんの代表作の一つ、「こんとあき」のミニクリアファイルまで.....!!!!!

 

家宝....っ! 圧倒的家宝っ.....!!!!

 

さらに、袋の中にはもう一つ。

 

 

(あれ?もう一つ絵本? それに..)

 

 

"きょうはなんのひ?"

 

 

(あっ、)

 

 

その、本物の絵本とそっくりな色合いで、丁寧に色鉛筆で描かれた手書きの文字を見たとき、

 

今日何度目かわからない、言葉では言い表せない感情に包まれた。

 

「これ...!!!Aちゃん、」

 

「恥ずかしいから、お家でゆっくり見てね。

それから、このタイトルの下に、さっきもらったそれを、ね、ほら、ぴったりでしょ。」

照れくさそうに笑うAちゃんが指さしたのは、先程ウェイターの方に受け取った、数分前の私たちが刻まれた写真。

 

「うん....うん、ぴったり、」

 

 

 

"きょうはなんのひ?"

 

と書かれたAちゃんによる手作りの絵本は、同作のオマージュ要素もありながら、Aちゃんから私へのお手紙で、私たちのこれまでの思い出だった。

 

詳しくは、ここでは言わない。私とAちゃんだけの、大切な思い出だから。

 

そっと、そっと、私だけの宝物にしたい。

 

今日の思い出と共に。いつまでも、ずうっと。

 

Aちゃん、

夢みたいな船上のお誕生日会を、

何よりも価値があるプレゼントを、

心からありがとう。

 

 

ーーーーーーーー

 

"きょうは わたしの25どめのたんじょうびだったのです。"

 

"おめでとう はたしかに、とどきました。"

 

 

ー "ところで、きょうからやくいっかげつご、いったい なんのひでしょう?"

 

きょうはなんのひ? 前編

 

ー ふんふんふんふふーん ふふふふふ ♪

ー ふんふんふんふふーん ふふふふふ ♫

 

いつにもましてご機嫌で、鼻歌が止まらない私である。

あの日からずっと、口ずさんでいるメロディ。

 

もしこの不可思議な文字列だけでお分かりの方がいたら、握手を求めたい。

まあ、勿体ぶる必要もないので、僭越ながら正解を歌わせていただきます。

 

ー マーリンルージュで 愛されて ♪

ー 大黒埠頭で 虹を見て ♫

 

そう、サザンオールスターズの言わずと知れた名曲、「LOVEAFFAIR〜秘密のデート」である。

youtu.be

サザンは、父の影響か学生の頃からファン。もちろんこの曲もお気に入りで、特に横浜に越してからは何度も聞いていたが、ここのところ、繰り返しヘビーローテーションしている。

 

なんせ油断するとすぐ、「脳内私ラジオ」のメインパーソナリティである「DJ私」が、

 

ー はい、ペンネーム"私"さんからのリクエストで、サザンオールスターズの「LOVE AFFAIR〜秘密のデート」をお送りいたしました。

続いてのお便り参りましょう、ペンネーム"私"さんからで〜す。

....こちらも曲のリクエスト頂いております。さっそくお応えして、お聞きいただきましょう、サザンオールスターズで、「LOVE AFFAIR〜秘密のデート」です、どうぞ。

 

というふうに、永遠ループがはじまるのだ。

 

でもこれも、幸せな悩み。そう、今年の私の誕生日のテーマソングなのだから。

なんでかって?これからゆっくり記させてほしい。

 

そんな幸せな誕生日を私が送れたのも、ひとえに幼馴染Aちゃんをはじめ、家族、そして親愛なる皆様のおかげだ。

感謝と愛を込めて、今年の私の誕生日の記録、日記を皆様に向けて送りたい。

 

ーーーーーーーーーーー

 

誕生日前日。

 

この前の日に、転職活動第一歩となる面接を終えた私。(前回の日記参照)

緊張で強張った体と疲れを癒すためにも、この日はお馴染みの「みうら湯」へと向かうことに。

 

いつものようにオープンと同時に、一番風呂を頂く。

ああ...やっぱり天然温泉、特に黒湯炭酸泉は最高だ!!気持ちいい、極楽極楽....

 

サウナもマスト。今日も今日とて、普段は目にすることのない昼の情報番組をお供に、汗をかきながら程よく蒸される。

 

出来上がったアチアチの体を水風呂で冷やしたのち、なにやら意気揚々と外へ向かう丸裸のキューピーちゃん。

 

実は彼女、ようやく「整う」がわかってきたらしい。これまでは、サウナ→水風呂→寝湯や座り湯と、どうやら間違ったルートを辿っていたというのだ。

一部分とはいえ、湯にあたっているといつまでもサウナによる火照りが冷めず、のぼせやすくなってしまっていた。

あくまでも「外気浴」は椅子や畳のベッドなどで、全身に風を浴びてリラックスすることが大事だと今更気づいたらしい。

 

そうして正しい「整い」を覚えた彼女は、まんまとその快感にハマっているというワケ。

 

...感想さんの「整う文化ディスりブログ」を読んでゲラゲラ笑っていたくせに。もう二度とそっち側の人を笑えないぞ。

 

キューピーちゃんは聞こえないふり。

 

(さあて、今日も整いますか..)

"整い"を覚えた自分に酔いながら、お馴染みのベット状の休憩スペースに上がろうとしたその時、

 

ツルッ

 

「あわっ」

 

段差を上った右足が、綺麗に滑った。

 

尻餅をつきそうになり、咄嗟にバランスをとろうと左足で支えようとしたところ、

 

左足のすねから足首にかけてを、お見事、強打!

 

(あ"っっっっ!!!!!)

 

その姿は、そう、まるでストリートダンスの技の一つ、「GET DOWN」そのものだった。

youtu.be

 

(い"っっっっっっっったい!!!!!痛い!)

 

皆様がくつろぐ温泉なので、声に出して痛みを訴えることもできず、悶える。

と、ここで背中に刺さる妙な気配に気づく。

 

(はっ!!!)

 

無論そこには、無様な私を心配そうに見つめる常連のおばあちゃまたち。座り湯からも、露天風呂からも、哀れみの目線が痛い。

皆さんが一斉に口を開く。

 

おばあちゃん1「滑るから気をつけてね」

おばあちゃん2「滑るから気をつけないと」

おばあちゃん3「滑るからね、気をつけて」

 

目の前の張り紙「浴室内は滑るのでお気をつけください」

 

穴があったら入りたい私「....っへへへ、あはは」

 

照れ笑いになり損ねた引き攣った笑みを浮かべつつ、ペコペコとご心配をおかけしたことを詫びる。

 

そして何事もなかったように寝転び直し、"整い"を再開しようと試みる。

 

 

.....

 

 

いやもう手遅れだよ。

 

 

なにも考えずリラックスして外気浴するどころか、ズキズキと痛む足に、先ほどの自分の痴態とおばあちゃまの言葉がリピートされる脳内に、とっくに「乱れ」てるよ。

 

調子に乗った罰にしては痛すぎるね、キューピーちゃん。

 

※現在、このように痛々しく腫れている。(閲覧注意)

黄色と紫のグラデが芸術的だネ。

私は今25歳になったから我慢できるけど、24歳だったら我慢できなかった。

 

気を取り直して湯上がりお昼ごはん。

例によって"チキン南蛮一択"かと思いきや、日替わりメニューがまさかの「唐揚げ甘酢あん定食」だったため、迷わずそちらを注文。(私は甘酢や黒酢に目がない)

 

おいし〜い、これは当たりだあ。

 

足の痛みから目を背けるようにご馳走を楽しんだのち、休憩スペースで「きのう何食べた?」を最新刊まで一気読み。よきかなよきかな。

 

再入浴して温まり直し、ドライヤーで髪を乾かしていると、携帯にメールの受信が。

見覚えのある文字に、一気に緊張感が高まる。

 

 

(あっ....!!!)

 

 

 

そう、実はこの時に、採用の通知を先方からいただいたのだ。

 

 

(慎重かつ厳正なる選考の結果.....採用)

 

(やった....やった!!!!)

 

 

「お客様、携帯電話の使用はご遠慮いただいてます」

「はっ!!あっ、すみません!!!申し訳ないです!!!!!」

一気に現実に引き戻されたが、心臓は大きくどくどくと脈打ち続けていた。

 

昨日面接に行って、次の日に良い知らせを頂くなんて、思いもしなかった。

24歳最後の日が、こんなに記念すべき日になるなんて、思いもしなかった。

 

ーーーーーーーーー

 

誕生日当日。

 

大粒の雨の音で目が覚める。

"誕生日は雨が降る"という私だけの、ジンクス。今年も、達成。さらにいえば、今年は警報が出るほどの荒れ模様。

 

雨は大好きだが、複雑な表情をしてるのには訳がある。

 

(なにも出勤前にこんなに降らなくても...)

 

そう、今年の誕生日は、残念ながらお仕事なのだ。社会人にとっては致し方ないが。

 

けれど、せっかくの誕生日なので、気持ち丁寧にメイクを施し、お気に入りの水玉のワンピースを装い、長靴がわりのブーツを履き、傘をさして出かける。

 

〜ただいまお仕事中〜

 

ただいま。はー疲れた、ご飯ご飯。

 

本当は、夕飯に1人誕生日パーティーに、外食に繰り出そうと考えてもいたけれど....

 

結果、作り置きのグリーンカレーをタッパのまま食べている。

いや、美味しいんだよ、これ。

だって何度もグリーンカレー作って上達したし、もも肉使ったからコクもあるし、ズッキーニもとろとろだし....

 

でも、1人で過ごす誕生日は、やっぱり少し寂しかった。

家族や友人、親戚の方々がSNSで祝ってくれなければ、会社の同僚が1番にプレゼントをくれなければ、なんとも虚しい誕生日になるところだった。

 

1人パーティーすら取りやめた理由は、昨日確定したばかりの転職を、今の職場に早く伝えなきゃ、という不安や焦りに包まれていたから。

 

こんな状況で外食しても、そのことで頭がいっぱいで楽しめないことは自明だったからだ。

私は一度自分ではどうしようもできない不安にとりつかれると、なかなかその沼から抜け出せないので、こうして誕生日当日にも、ズブズブと深みにはまっている。

 

案の定ベッドに入っても、終わらないぐるぐる思考。

夜に深く潜るなとあれほど....あ〜あ

 

実は昨夜も、考えすぎてほぼ眠れず寝不足状態だが、今日もどうやら眠れなさそうだ。

 

そうして、25歳になって初めての、長い夜は更けていった。

 

 

ーーーーーーー

 

誕生日から1日。

 

なにやら、朝から気合いを入れ直している彼女。

 

(よし!!!今日、言うんだ!!!!)

 

そう、今日ついに、上司の方に転職を打ち明けるのだ。

(どう受け取られようとも、私の人生の決定はすでに私が下したんだ。どんと構えるのみ!)

 

お守りがわりに手に持った携帯には、父と母からの応援メッセージが光っていた。

 

 

〜ただいまお仕事中〜

 

 

無事に、退職の旨、お伝えすることができた。

 

ようやく肩の荷が降りる、と同時に、新しい人生のチャプターへの実感、不安がじわじわと襲ってくる。

 

 

でも、ひとまずは。

 

25歳になった自分を、ここまで頑張って生きてくれた自分を、お祝いしてあげよう。

 

うん。

 

さあ、ついに明日は、2日遅れの、私の最大なる誕生日パーティーだ。

 

すっきりした面持ちの私の心の中には、10年前から変わらず誕生日を祝ってくれる、Aちゃんの顔が浮かんでいた。

 

 

 

ー 後編へ続く。

 

 

 

おわりとはじまりの、なつ

4月。

 

信号待ちでぼーっと音楽を聴いていると、「突然すみません」と声をかけられた。

慌ててイヤホンを外すと、見知らぬ可愛らしいおねえさんの姿。

カラコンと濃いめのお化粧が印象的な、目力のある瞳でじっと私を見つめ、鮮やかな唇を開く。

 

「生保レディのお仕事に興味ありませんか?」

 

あっ、そういうことね。

SNSTikTokで求人をする時代に、こんな道端で野良スカウトなんて、まあなんとご苦労様なことで....

 

「すみません、会社に所属していまして。」と、事実を含んだ断り文句で会釈を返し、ちょうど信号が青に変わった横断歩道を渡ろうとすると、

 

「あのですね、働く女性は、3年目がちょうど転職を考える時期と言われていまして....」

と食い下がる、生保レディ。

 

"自称 断れないマン"の私でも、都会での生活に慣れる上でこの手のスカウトをはじめ、勧誘やナンパへの対処が嫌でも上手くなってきたので、「すみません〜」とヘラリとしながらその場から去る。

 

ほっ、参った参った。

再びイヤホンを耳にはめ、再生ボタンを押す。

しかし聞こえるのは音楽ではなく、先ほどのレディの言葉。

 

"3年目がちょうど転職を考える時期と言われていまして...."

 

(...まいったなあ、ホント)

 

 

心の奥底の図星を突かれたように、その言葉がいつまでも、私の脳内でリフレインしていた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

あの日からちょうど3ヶ月経った、今。

社会人3年目の7月が始まった、今。

 

あの日のレディが説いた定説通り、まんまと私は、今、

 

転職に向けて動き出している。

もっと言うと、

既に退職することも、次の就職先も、決まっている。(念のため言うが生保レディではない)

 

ううん、こういう時は姿勢を正して....

 

....えー、ゴホン。この日記をありがたくも読んでくださってる親愛なる皆様。

私をご存知の方も、ご縁があって初めましての方にも、急なご報告ではありますが、この場を借りて、今一度大きな声で....

 

この夏、転職する運びとなりました!!!

 

 

...喜んでいいやら、悲しんでいいやら。

 

そもそも転職を考えはじめたのは、レディに誘われるずっと前からだった。

今年の2月には、同期に「私は遅くとも今年度末には、絶対退職するからよろしくねン」と高らかに宣言していたし、

今の職場にいるのも、偶然と縁の巡り合わせのようなものなので、なんなら1年目から同期とは「辞めたーい」「ねー」って言ってた気がするし(Z世代では珍しくもない)

 

でもなんでかな、今となっては正確に自分がどのタイミングで、なにがきっかけで「辞めたい」って思ったのかわからないや。

いや、そりゃあ「辞めようと至った理由」ならぶっちゃけいくらでも羅列できるけど、ナンセンスだからこの場ではやめておこう。

 

シンプルに、「今の職場に居続ける私」よりも、「新しい環境に進む私」の方がずっともっと魅力的だったからにすぎない。

自分の人生なんだから、自分の好きな方を選んでいいんだよ。これは私の大切な人みんなに言いたいことでもある。

 

それはともかく、こんなにも実感が湧かないのは実質的な転職活動期間が、最速だったからだと思う。

 

「辞めたい」→「何かやりたいことを見つけなきゃ」→「自分にはどんな仕事があってるのだろう」→「そもそもどこに住みたいかで決めるべき?」→「先に家を見つける?」→「わーなんか考えるだけで病んできた」→(振り出しに戻る)

といった出口のないループ思考は、随分前から始めていたが、

 

実際に求人サイトを訪れ、応募し、面接に行き、内定をもらうという一連の流れには、実は半月も費やさなかった。 

3年ぶりにリクルートスーツに身を包み、履歴書も前日に急いで書き上げた私が、まさか一社目で内定を頂くとは思いもよらなかった。

「働きながらの転職活動」は大変だと聞いていたが、タイミングに恵まれたらしい。

案ずるより産むが易し、だネ⭐︎

 

 

そして現在、無事「上司に退職を告げる」までは無事クリアできたのだが、詳しい退社日や入社日はまだ決まっていない。職場が繁忙期ということもあり、下手したら退社→翌日入社という地獄のスパンもあり得なくはない。

(正直辛い)

 

でも、お世話になった今の職場になるべく迷惑をかけないように、立つ鳥跡を濁さず、感謝と別れを告げて、気持ちよく円満に"終わる"ことが、気持ちよく"始まる"ためには必要なんだ。

 

変化に弱い私には目まぐるしい夏になりそうだけど、どうにか乗り切ってみせるよ。うん。

 

とはいいつつ、新たな生活への大きな不安を隠せない私に、父からこんなメッセージが届いた。

 

無口で不器用で、昔から私のやることに手放しで賛成してくれた試しがない父が送ってくれた、この短くてありふれた言葉。

一見プレッシャーのように思えて、だけど不思議と、この言葉に現在進行形で救われている。

 

「人生の節目」か、そうだよね。今までも重要な選択はしてきたけれど、両親の庇護下にあった子供のときとは訳が違う。

大人になった私が自分で、1人で、責任を持って決めたことなんだ。

私は今まさに、人生の節目で、ターニングポイントで、分岐路にいるんだ。

 

そしてそれを、より良いものにできるかどうかは私にかかっているんだなあ。

もちろん運もつきものだし、私にはどうにもできないことの方が世の中には多いって、散々学んできたけど、"いくらでも自分の気持ちと行動で運命が変わる"って、もう知っちゃってるもんなあ。

 

仕事は私の人生に置いて、"手段"でしかないものだけど、"目的"のためには必要不可欠で。

だから、この転職が、"目的"のための"より良い手段"になることを、今はただ願うばかり。

来るべき時が来たら、行動するのみ。したいことを、するのみ。

 

父なりのエールを噛み締めて、ワタシは自信を持って、人生の節目に立ちたい。

怖がりつつも、ひとり、自分の足で。

 

ーーーーーーーーーー

 

もうひとつ、私にとっては大きなご報告がある。

それは、転職に伴ったお引越しのこと。

このアパートから出ていく日が、そう遠くないということだ。

 

アパートの契約更新日には余裕があるが、新しい職場が今の住所からだとやや遠いのと、生活の質を上げたいのとで、引っ越しはマストだ。

 

ここでの生活が気に入っていただけに、正直名残惜しいことこの上ない。

(職場との別れの何百倍も悲しいし辛い)

 

良い物件が見つかり次第、なのですぐには引越しをしないとしても、お馴染みの生活、お馴染みの休日、とのサヨナラの日が、着実に近づいていることは確かで。

 

悔いの残らないように、そして最後まで私らしく過ごすためにも、特別なことをせず、いつもの休日を今日も楽しんだ。

放送ライブラリーで名作を鑑賞し、ハマスタを眺めながら横浜公園のベンチで手作りサンドイッチを食べた。

 

どんなに慣れ親しんだ景色だって、1秒ごとに思い出に変わっていくことを、今更実感する。

 

やっぱり、ここが好きだな。

 

いつか出会う誰かに、「懐かしいな〜昔はこの通りをよく歩いたものよ」なんて得意げに言いながら、日本大通りを歩いてる未来が、どうか訪れますように。

 

それにしても.....

 

今はまだ、いつもの私は、いつもの場所にいるはずなのに、

何かが終わって何かが始まる、そんな予感で心はざわつき、どこか落ち着かない様子。

 

今は、四季すら目まぐるしい。

梅雨入りして、梅雨が明けて、あっという間に夏がはじまる。

 

なにかが終わったら、なにかがすぐ、始まる。

 

終わって欲しい。早く始まってほしい。

いや、終わらないでほしい。なにも始まらないで、今のままでいてほしい。

 

直前になって「ヤダヤダ」と駄々をこねる子どものように、忙しない私の心なんて知らんぷりで、

未来の私が笑いながらそっと肩を叩く。

 

大丈夫、はやくおいでよ。終わらないと始まらないよ。

待ってるよ、節目のその先で、

 

より良い未来で。

モンロー•ウォークで

 

自分を取り巻く環境と、自分自身の考えが、目まぐるしく形を変えはじめたこの頃。

 

私は変化を苦手とするので、イヤなことは一気にさっさと終わらせたい。いろんな変化を一度に迎えて、さっさと順応していきたい。

という偏った思考から、一度変化し始めると、自分でもついていけないくらいトップスピードで駆け抜ける。う〜む、気持ちいいくらいの0.100だねぇ。

 

あるいは、プレッシャーに弱いだけかもしれない。"私のターン"となる決断や責任をさっさと果たしたいだけ?

仕事でもなんでも、任されたら秒速で片付けるもんねえ... 強迫or不安症かな?

 

ま...それは置いておいて、

 

今こそ「自分」を大切にしてあげよう。

そう決めた6月は、「自分の好きな人と、好きな時に、好きな場所へ」赴く機会を積極的に作った。

 

中でも、一際、楽しみにしていたことがある。

 

変化に疲弊する私を癒す、中学から変わらない自分の"好き"にどっぷり浸かれる、そんな夢のようなイベントがあるのだ。

 

というわけで向かった先は、

大都会、渋谷の街。

 

もちろん、普段は都会の喧騒や煌びやかな遊びとは、縁もゆかりもない私。

そんな私がなぜ渋谷に、しかも若者集う宮下パークにいるのかというと、全てはこのイベントのためである。

 

そう、「昭和歌謡ナイト」が、渋谷に帰ってきたのだ。

 

私は新参者なので詳しくは語れないが、元々渋谷のリズムカフェという小さなバーで2011年から行っていたらしい本イベント。

コロナなどを経て、ついに3年ぶりに渋谷にカムバック!しかも会場もグレードアップ!

...ということで、私も二度目の参加を決めた。

 

はじめては、2年前の12月のこと。昭和歌謡好きの(珍しい)友人と、新宿での開催回に参加した。

今でもよく覚えている。衝撃だった。

「YOUは何しに日本へ?」で取り上げられた時から存在を知ってはいたが、想像以上に素敵なイベントで、もっと早く行けばよかったと後悔した。

 

都内での不定期開催となるとなかなか予定が合わず、その後チャンスがなかったが、渋谷なら仕事終わりでも間に合いそうだ!

 

DJイベントは、達郎さんの以来だな。

natsunitsuki.hatenadiary.jp

それも渋谷だったし、今回も仕事終わり。

3回目となると、もう準備には慣れっこ。小さいカバンで、踊れるスタイルで。

 

1人参加にも慣れっこ。

会場を探すのに少し手間取ったが、予定通り19時ちょっと過ぎには到着した。

わーお、なんて洒落たミュージックバーなんだ。普段なら絶対入れない。

イベント自体19時開始ということもあり、会場にはまだ、まばらな人影。

 

トップバッターのDJの方が、始まりにふさわしいメロウな曲をかけている。

 

(とりあえず、ドリンク買おう)

 

入場料の500円は支払い済みで、ワンドリンク制ではないが、マナーとしてレモンサワーを一杯頼む。

飲み過ぎると真っ赤になって踊れなくなるから、ほどほどにちびちび飲もう。

 

適当な席に腰掛け、会場の様子を伺う。

 

1人参加の方も多そうだが、大体が常連さんのようで、来る人来る人と親しげに挨拶を交わしている。

 

(やっぱりアウェイだったかなあ、前回は初めてでも友達がいたからなあ...)

 

少しの不安は残りつつも、ここまできたら踊りまくって楽しむしかない、なんなら同年代の音楽仲間をゲットするチャンスだ!!と意気込んでいると、

 

「Hi!」

 

あの日テレビの画面で見たままの、「DJ Dandy」さんがフランクに話しかけてくださったので、拙い英語で返す。

 

「ようこそ!はじめての参加かな?」

「いえ、2回目です。前回は新宿のに。あまりに楽しすぎて、また来ちゃいました。」

「そうか、今日は楽しんで行ってね!」

「はい、ありがとうございます!」

 

それがいいきっかけになったのか、前の席に座っていたおじさまも声をかけてくださった。

その方もどうやら常連さんだったようで、一言二言言葉を交わすうちにあっという間に打ち解けて、気づいたら一緒のテーブルで乾杯していた。(秒速)

昭和歌謡」という共通言語を持った私は無敵で、年齢や国籍も関係ないって改めて感じる。

 

そこからは数珠繋ぎにおじさまがおじさまを、そしておにいさんを、お次はおねえさまを、またおじさまを...

というように、常連の方々を次々と紹介してくださり、1人参加にも関わらず、すぐにその場の雰囲気に溶け込むことができた。

 

ほらね。昭和歌謡好きな方に悪い人はいないのよ。どうやら楽しい夜になりそうな予感!!

 

段々と人も増えてきた。皆様とのおしゃべりも楽しいが、椅子に座った体が、踊りたくてソワソワしだす頃。

絶えず流れている曲はかなり古い曲ばかりで、おじさま方も知らないみたい。「もう少しでDJも変わって、踊れるナンバーが始まるよ」とのこと。

 

「じゃあ、その時は一緒に行きましょうね」

まだ数人ほどしかいないフロアの中心、DJブースの目の前を指差し、ニヤリと笑う私。

 

「ちなみに古い曲だとどんなのが好きなの?」「モンロー・ウォークとか、最近気に入ってます、」などと、他愛のない会話をしていると...

 

DJブラッシュさんのターンへ。

あっ、段々と知ってる曲がかかってきた!

 

ー いなせだね 夏をつれてきた女 ♪

 

「め組のひと」を皮切りに、フロアへと飛び出す私たち。他の人も集まってくる。

ー 涼しげな 目もと流し目 eye eye eye

粋なこと 起こりそうだぜ めッ! ♪

 

あのお馴染みの振り付けを、ピースサインを、みんなで揃えて「めッ!」と合唱する。

わ〜!!!これこれ!楽しい!!

 

改めて、昭和歌謡ナイトの始まりだ!

 

ここからはノンストップで、数ある昭和歌謡の中でも名曲と呼ばれる、踊れるヒット曲メドレーが続く。

 

ピンクレディーチェッカーズ、聖子ちゃん、明菜ちゃん、ジュリー、光GENJI、マッチ...

どれも知っている曲ばかりで、曲が変わるたびにはしゃいで歌って踊っていた。

(全て生まれる前の曲だけど)

 

振り付けが分からなくてもご心配無用。

前回もそうだったが、目の前には最高のお手本であるなお姉様方がいてくれるのだ。

真似をしてもいいし、間違っていても楽しんで踊れば、いい!昭和歌謡は自由!

私が特に盛り上がったナンバーを覚え書き↓

フィンガー5「学園天国」「恋のダイヤル6700」など

フィンガー5は私の原点であり頂点。昭和カルチャーにハマるきっかけとなった彼らの曲を、昭和歌謡ナイトで噛み締める幸せ。

中学時代、1人でイヤホンで聴いていた曲を、この場にいる皆さんと歌って踊れる幸せ!

 

アン・ルイス「あゝ無情」

サビの「ふふ〜!」「ふわふわふわふわ」の合いの手が楽しすぎる(伝わる?)

普段自分で聞かないようなロックなナンバーも、この場だと異常なくらい盛り上がるね。

 

山本リンダ狙いうち

改めて聞くと、自己肯定感爆上がり曲だわ..

昔はちびまる子ちゃんのイメージだったけど。

リンダそっくりなお姉さんが美し&かっこよすぎて、必死に後をついていった。

 

松田聖子夏の扉

スマホをマイクがわりに大熱唱した。気分はもう聖子ちゃん。この夏も繰り返し聞こう。

おじさまたちが親衛隊を思い起こさせるのもまた一興。

 

クライマックスは、ブラッシュさんが「城ちびる」に扮して「イルカにのった少年」を熱唱。

前回も思ったけど、本当に面白くて魅力的な方だなあ。

 

続いて元祖昭和歌謡ナイト、リズムカフェのオーナーであるDr.Kさんがゲスト出演。

この方のおかげで、私は今こんなにも楽しめてると言っても過言ではない。ありがたやありがたや。

大好きな「翼の折れたエンジェル」が流れて嬉しかったなあ...ハスキーボイスたまらん..

 

ここでようやく、1時間ほどノンストップで踊っていることに気づき、クールダウンがてら席に戻って水分補給。

アドレナリンが垂れ流し状態なので、仕事終わりだろうがヒールだろうが、疲れなど微塵も感じなかった。ずっと踊り続けたい。パリピの方々の気持ちに今なら共感できそう。

 

はしゃぎすぎた子どものように赤いほっぺたをグラスで冷やしていると、常連さんが集うボックス席にお誘いいただき、また新たな方々と交流することができた。

 

相変わらず年齢とのギャップに驚かれることも少なくないけど、

好きなものを「好き!」と堂々と言えて、その良さを分かち合える場にいることは、私にとって夢物語も同然なんだ。

 

夢から覚めないでほしい。

でも物語は最高潮のクライマックスを迎える。

 

ついに、大トリとなるDJ Dandyさんの登場。

前回、新宿では、まだ実家にいた時で今より終電が早いのもあって、満足に楽しめなかったDandyさんのDJ。

 

結論から言うと、最っっっ高にクールでドープで、素敵だった!!!!!!

 

知らない曲も多かったけど、すぐに聴き直してレコードを買いたくなるくらいに、チョイスが渋くて良かった...日本人より昭和歌謡の魅力を"分かっている" ような気さえする。

「真夜中のドア〜Stay With Me」のような海外の方に人気な曲から、「北酒場」のような演歌まで、ジャンル問わず幅広く、本当に昭和歌謡を愛してるのが伝わってくる。

 

以下、またまた記憶に残った覚え書き↓

荒井由美ルージュの伝言

ここでユーミンはずるいっ!!イントロで会場がどよめいたもんね...永遠の名曲。 

 

西城秀樹「激しい恋」

初めて聞いたけど、印象的な振り付け含めて気に入った!ブラッシュさんのオンステージも合わせて最高。

 

江利チエミ「カモナ•マイハウス」

1952年!?当時15歳!?!?

色褪せない名曲に圧倒&感動。

 

◎サーカス「愛で殺したい」

みんなで手を振って、フロアが一つになって、最高の時間だった。

 

そうそう、「個人授業」もかけてくれた!フィンガー5が盛り上がる定番曲になっていて嬉しい限り。

この場にいる人をみんな、昭和歌謡の世界に誘って、熱狂的に酔わせているDandyさん、恐れ入るよ...すごい...

 

終電の時間を気にしながらも、仲良くなった皆さんと目を合わせながら踊って、笑い合いながら歌う、このスペシャルな時間を満喫する。

 

と、ここで、聴き慣れたイントロが!!

「モンロー・ウォーク」!!

思わずおじさまと爛々と目を合わせる。

 

私のテンションも最高潮で、オリジナルの振り付けで、モンローウォークで、ジャマイカあたりのステップで、腰をふりふり大胆に踊る。

 

恥とか、世間体とか、正解不正解もなしに、好きな曲でダンス!!!これ最高!!!

 

(ホントにそろそろ帰らなきゃ...うわーんやだヨ〜!!!!帰りたくない〜〜っ!!)

 

普段は自分に自信がなくて、人に気を遣って、知らぬ間に心をすり減らしている私が、

こんなにも自分らしくいれて、自分を解放して、楽しめている場から、心から離れたくなかった。

 

でも、今日で最後じゃない。何度だって、こういう機会に自分を連れて行ってあげたい。

 

 

どうやら「昭和歌謡ナイト」は、来月も待っていてくれる。

 

 

最初から最後までお世話になったおじさまと、仲良くなった方々に願いも込めて「"また"会いましょう」と声をかけて、ハイタッチをして、後ろ髪をひかれつつその場を後にする。

 

魔法が解ける前に帰るシンデレラ、もとい、終電前に帰る汗だくの私の背中で、昭和歌謡が少しずつ小さくなっていく。

 

宮下パークを後にして渋谷駅へと向かいながら、今更、学生時代の体育の後くらい汗をかいていることに気づく。

(そりゃそうだ、3時間くらい踊り続けてたんだもん!)

そのことがおかしくて、不快なはずの汗すらも心地よくて、不思議で夢うつつな気分だった。

 

 

こういう風に、自分の"好き"を思う存分摂取すると、俄然無敵になった気分になれるから、人間って不思議だな。

 

不確かな未来への勇気がむくむく湧いてくる。

 

上等じゃん、変化。

トップスピードで駆け抜けてみせるよ。

 

...ちがう、ゆっくりでいい。あくまでも自分らしさを忘れずに、マイペースに行こう。

 

そうだ。

 

モンローウォークで、踊りながら行こう。

youtu.be

 

 

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三連休が終わって朝が来たら、ひとつ歳をとった私は、どんな足取りで会社へと向かっているのだろう。

 

軽やかでありますように。少しの緊張さえ、心地いいものでありますように。

 

いい一年にきっと、どうか、なりますように。