なつにつ記

過去と今を自由に飛びまわる私記/エッセイ。 レトロでファニーでちょっぴり不器用なくらし。 食いしん坊。 短編小説だと思って、お暇な時にぜひに。

50 days

 

湯たんぽをしまった。

 

去年は3月10日ごろにしまった。

母に教えてもらったように、空焚きして、晴れた日にベランダで乾かして、そっとクローゼットにしまった。

達成感に包まれながら、すでに気分は春模様で、暖かな日々を楽しもうとホクホクしていた。

 

 

直後、ぶり返した寒波に襲われた。

 

またすぐ暖かくなると信じて、カラカラの湯たんぽを再び出すことはしたくなかった。

 

が、無情にも凍えるような夜と朝が、しばらく続いた。

 

そこからは意地の張り合いだった。

 

その頃は一人暮らし始めたてで、電気代の相場がわからず、何を血迷ったか「とりあえずエアコンは使わないでおこう」という狂った選択をしていたので、

暖房もつけず、湯たんぽも沸かさず、入浴はシャワーのみ。(追い焚きがないという理由)

そして生粋の冷え性の私。

 

つまり、完敗だった。

 

 

あれから、1年と1ヶ月。

今度は、満を辞して湯たんぽをしまった。

3月半ば、汗ばむほど暖かい日があったときも、

「ふん、騙されないぞ」と湯たんぽにアップをさせ続け、いつでも臨戦体制でいさせた。

 

すごいなあ、人ってこうやって知恵をつけて歳をとっていくんだなあ。 

 

知恵をつけずに年だけ取らないようにしようっと。

 

そう、思った。

 

 

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50日ぶりの日記かあ。

いいよね、日記は必ずしも日々つけるものではないし。

 

それに、50日間、絶えず心の中で、なつにつ記は続いていた。

書きたいことも、表現したい気持ちも、私の中で溢れそうなほどあったから。

 

いいよね、書きたいときに書けば。

 

 

50日の間に、長かった冬が終わり、春が来た。

姉は日本に帰国し、またドイツに帰った。

「消えてしまいたい」と1人沈み、「生きるって楽しい」と誰かと笑った。

 

社会人2年目と、一人暮らし1年目が終わり、

 

社会人3年目と、一人暮らし2年目が始まった。

 

 

そうか、春が来たんだね。

 

定時に帰ると、まだ少し明るいもんね。

湯たんぽがいらないくらいだもんね。

 

今日の雨と風とで、桜はだいぶ散ってしまったけれど、それでも春は確かに、今年もきたんだって、

ひとり、じんわり嬉しい。

 

 

桜木町駅へと続く動く歩道からの景色も、ここ一週間が、1番美しくて。

 

水色の空に、ピンク色の満開の桜に。

キラキラ光る遊園地のメリーゴーランドと、帆船と、ビルの明かり。

 

 

いつもなら、ほぼ毎日通り過ぎるし、人混みは嫌いだし、さっさと帰りたいから横目に流していた。

 

でも、そうか。

 

(この景色も最後?)

 

 

50日の間に、始まって終わった私のあれこれ。

 

そして次は、

 

 

この街での最後の春が、始まって終わろうとしている。