なつにつ記

過去と今を自由に飛びまわる私記/エッセイ。 レトロでファニーでちょっぴり不器用なくらし。 食いしん坊。 短編小説だと思って、お暇な時にぜひに。

カンカン帽と苦い思い出 前編

夏になって、麦わら帽子をかぶる女の子を見ると思い出すこと。

確か、小学5年か6年の夏休み。
その頃、西野カナさんの影響でカンカン帽が流行っていた。
日焼けした短パン娘の幼い私も、例外なく憧れた。
と同時に、変なところで大人びていた私は分かっていた。
あれは、化粧品や香水と同じように、大人のおねえさんにだけ許されたものだろうな、と。
それか、ちゃおガール(雑誌ちゃおのキッズモデル)のような、とびきり可愛い女の子がかぶれる帽子なんだ、と。
憧れは憧れに留めよう。と惜しみつつ諦めた。
つもりだった。

それは思ってもいない母からの言葉。
「似合うじゃん、買ってあげるよ」

地元のショッピングモールの洋服店で、かぶるだけなら許されるだろう、と、姉と一緒に店中のカンカン帽を取っ替え引っ替え鏡の前で試着していた。
そんな私たちの姿を見て親ながらいじらしく思ったのか、普段から「ほしいなあ、でも、似合わないよね」としつこく聞かされていたからか。

ともかく、私の憧れを、母は突然に手渡してくれたのだ。

値段も大人びているそれを、母は姉妹平等に買い与えた。
姉は黒いリボン、私は憧れの西野カナさんのような茶色いリボンのカンカン帽。
私はてっきり母も、「子どもにははやいんじゃない?」というものだと思っていたので、「似合う、似合う」という言葉付きで手に入った時の気持ち。

言うまでもなく、たいそう私は喜び、最高の夏休みになることがその瞬間確定した。
家についてもまだ夢のようで、カンカン帽と手持ちの服でファッションショーを開催し、たまに思い出したように不安になって、「似合う?かわいい?」と母に確認した。
そうして、「とっておきの日におろそう」と胸を高鳴らせながら、クローゼットのラックの上にかけた帽子をいつまでも眺めていた。

長くなるから、続きは改めて。
余談だけど、自分の家族、特に母親に褒められると、洋服でもなんでも自信を持って買えるよね。
正直な言葉だと信頼があるし、他人じゃなく大好きな人だけに「可愛い」って思ってもらいたいもんね。